✞ EXODUS TO THE MOON 満月への脱走 ✞

あの夜から、実に二年の月日が流れた。團治郎に斬られ、全ての魂を解脱させられた鉄司は今や、組織を再起させるべく日本国籍を取得し《白はこべ》行動隊長の座に就いたゲンズブール一族の最後の御曹司ネモネルによって創り出されたホムンクルス(人造人間)である同姓同名、見た目もそっくりの上位互換に取って代わられ、それまでの古い鉄司(本物)はすっかり原型を留めぬ姿と成り果てていた。堂山町のレジャービルやファッションホテルが乱立する地区に建つかつての高級ナイトクラブ、ストロベリーホールの最奥に潜む團治郎の部屋に、その体は二年間安置されていた。團治郎は既に本物の鉄司が生命も魂もない「死」の状態になっているにも関わらず、キッチンの引き出しから堅パンを取り出してそっと彼の口に入れた。彼は死んでいるので当然咀嚼もできないが、團治郎の両目に宿る霊力を顔の部分に照らし、与えたものを自然に食べさせる「橡襍(ゾウゾウ)」の呪文を唱えた。すると、魂の残骸があたかも反応したかのように鉄司の口、そして歯が堅パンを砕き始め、真っ暗だった部屋に眩しい灯りがついた。闇と陰影に慣れた團治郎の目は夜行性の動物そのもので、昼間はずっと部屋の中にこもってバレエとキノコの栽培に明け暮れていた。

呪文の影響でストロベリーホール全体の灯りが点灯しているのを見た團治郎は、すぐさま逃げ走るように部屋を飛び出した。

「無限の魂と満月の恵みよ、覚醒する美の宇宙を我が躯体に与えたまえ――――」

そして、東通り商店街のゲートの前で「ブラッディ・ジムノペディ・ドレスアップ!!!!」の呪文と共に深い灰色をした幻影の繭に包まれ、やがてはあの黒い全身タイツに赤いマントを纏い、あの長ドスを携えた剣士へと華麗に姿を変えたのだ。

「儚き精(ココロ)に絶対の孤高たる魂を…………銀の刃に鋼鉄さえも喰らい尽くす怒りの焔を秘め、一つの仁義と共に生き、一つの言葉と共に死ぬ運命(さだめ)…………地の底より湧き上がる鉄血の如く、緋く染まりし暗黒の毒蛾…………私の名は、梅田團治郎だ」

團治郎は《白はこべ》が自分を倒すために復活したということを既に知っていた。二年前、彼は今際の際の鉄司にスボーツとは何であったかを全て曝け出した。スボーツとは、それをする自分を自らの手で生贄として捧げてしまうことであり、自分の能力を売って自分の精神と取引することでもある………すなわち、一度挫折すると自分の前には必ず誰かに倒される運命が待つ、ということ。それに、現状この世界にスボーツという概念とその範疇に含まれる競技の種類を創り出した者はおらず、代わりに阪鉄を創り出した“大小豆教の全ての根源たる教祖”大林一四郎が発案したことにしているのが、紛れもなく團治郎その人だ。現状このような復讐心の裏返しの揶揄をするのも團治郎だけだ。

團治郎は組織を再びダウンさせるべく「小松原町の赤い悪魔」を再び泉の広場に召喚し、お初天神通りのゲート横に鎮座する梅田花鳥風月劇場の地下に潜入してネモネルと鉄司(上位互換二代目)の影を漁り始めた。梅田花鳥風月というのは一般的には新喜劇と漫才専門の劇場だが、團治郎が剣士に覚醒した11歳の時、故郷の血淵を出て初めて見つけた護衛対象が姿を見るのも声を聴くのも恐ろしい狂気の自律型兵器グリーンフィールドに拘束されていた座長の花高大箱で、天井に小さく書かれていた暗号「United EnigMaxx Disconnected Dealers Association」を解読し、それを電話に擬態したキーパッドで入力することにより全ての座席をのけぞらせ、グリーンフィールドを塵になるまで殴りまくる百烈連撃を繰り出す全自動凌辱兵器に変形させるという芸当をやってのけ、護衛対象を泣き叫ぶほど驚かせたことがあった。

そして最近になって判明したのが、奇しくもこの劇場の地下がセヴンスヘヴンと繋がるウメダ地下センターの新御堂筋ブロックに直結していて、地下街内各ブロックの洋品・雑貨店と二ヶ所しかない化粧品店(局薬民國)に必ず用意されている赤い指輪のような魔法の精密機器、ヘヴンズ・コネクション・リングの利用で簡単に角田町までワープが可能になってしまったということだ。

このままでは行動隊に地下街経由で容易に侵入されてしまうので、團治郎は曽根崎ブロックにある特殊機械室に入って驚異的な手捌きで操作盤をいじり、ヘヴンズ・コネクション・リングの魔法を一時的に使えないようにした。

すると、ネモネルと上位互換鉄司ら行動隊は………

ネ「こぉぉのド畜生がぁぁぁぁぁああああああ!!!! せっかく今宵のために二年ものあいだ復讐の準備をしてきたのによぉぉぉぉおおおおお!!! 奴がいる花鳥風月に行けなくなっちまったじゃねえかよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」

鉄「無理なんかすんじゃねえ、そこへの出口付近まで走れよ!」

ネ「だって、その出口も奴の仕掛けた罠で封鎖とかされていたら……意味ねえじゃん?」

メンバー「確かにそうっすねぇ……この少数精鋭のグレイテスト・ファイターズが解散しちまうこと間違いなしっす」

ネ「とにかくオレはまだ方向音痴でもはや泣きそうな状況なんだぞ!奴に倒されねえ……いや、まず見つからねえように戦慄の先手を打つにはどうしたら良いんだ!?」

鉄「さぁ………そんなもん、俺にも分からん…………」

メンバー「リーダーなんだから何か秘策思いつくはずでしょ?何でそんなに首を傾げてんの?ホント185度くらい首を傾げていて僕ドン引きしてるんだけど」

小松原町の赤い悪魔「お、おーい、團十郎先輩!」

團治郎「っは(怒血ゲージ:22)? 私の名前は團十郎ではない、團治郎だ」

赤い悪魔「さっきから《白はこべ》の奴らダラダラしてて、なかなかあの出口に近づいてくんないんだよ!」

團治郎「…………やったね。私は彼らがその地下に《極装》を隠してきたと聞いて足跡を辿ってきたのだが、まだ地下街にいたのか。こんな洒落にならぬ痴態も私の猛毒でズタズタに粉砕して差し上げるわ、彼らの地獄の分までね」

赤い悪魔「そんじゃあ今すぐオイラと一緒に奴らを奇襲だァ!!!!」

團治郎「了解した。貴方は私のタルパだから、彼らにはその存在さえも全く分からない……」

?「やめろ!《極装》は俺のものだ、許さんぞ!!」

團治郎「…………あら。かなり小さい声。どこかで聴いた覚えのある声だね。もしかして篠田ラズベリ君に背いた召使いかしら?」

赤い悪魔「誰だよ、篠田ラズベリって」

團治郎「私が大嫌いな変態だ」

シャボン玉(作詞・作編曲・歌:岡本鐵雄)
  • 君の最期を僕は見た もうすぐ存在は消えると 僕の前で泣きながら 痛い記録 映し出す  そう、頭の中も体の全ても 声も無いその存在は もうすぐ跡形も無く消える シャボン玉のように消えてゆく  屋根まで飛んだ君の姿 壊れて消える君の姿 遠ざかっていく君の姿 もう一度、見たいのか  古き躯を捨てて蛇はここに蘇る そして 影の中の種 まき散らす 遠き躯を持って蛇はまた生まれ出る諚  そして 神は未だに僕を吹き飛ばす  なあ……なあ………なあ…………教えてくれよ 誰かさんからの知らん声  少年の怒りは世界を灰燼に帰す 怒りの日なる彼の日は 世界を灰燼に帰すべし 奇なるラッパの響き 明王の墓に鳴り渡るや 全ての者を王座に集め 貴様らの全てを曝け出し 世界を裁く書現れたり…………


From Umeda with love ×××××